自動車のスマートキーカバーを製造販売している革茶屋の代表 荻原さん(名古屋市)を取材しました。
バイクに乗り始めたころ、自分が使うためのアイテムを自作、レザークラフトが趣味となった荻原さんは、ある日先輩から「スマートキーの革ケースを作って欲しい」と依頼を受けたのがきっかけ。予想を超えるデザインの良さに先輩は大喜び。車好きが集うオフ会でも、瞬く間に革ケースの口コミが広がり、ニーズを確信した荻原さんは真っ先にネットショップを立ち上げました。2015年11月におちゃのこネットにてオープン。2022年7月現在、楽天市場やAmazonでも展開し、約15名のスタッフとともに事業拡大中です。
ショップ名革茶屋の「茶屋」は創業当時、自宅兼作業場だった名古屋の地名「茶屋」に由来しています。事業拡大とともに幅広い業務は分業していますが、デザインと制作は創業当時から変わらず荻原さん自らが担当しています。革茶屋のこだわりとして、独自の洗練されたデザイン、そして独自の加工技術により、他社が踏み込みにくい形状の商品化に成功しています。
さらに自動車やカー用品に関する口コミサイト「みんカラ」で革茶屋のスマートキーカバーの口コミが広がり、話題が集中。当時はまだ5~6種類ほどの商品しか取り扱いがなかったが、ご要望に応え続けていくことで、現在はほとんど車種のスマートキーに対応しています。多くの商品の中で、荻原さんおすすめの商品、思入れのある商品を教えていただきました。
荻原さんが先輩のために作った最初のキーケースの車種はスバルでした。スバルは強い思入れあり、かつ最も売れ筋の商品になっています。革の境界線に沿って青色のステッチが施され、洗練されたデザインが評価の高い理由のひとつになっています。
ブーツのような革の曲面加工は難易度が高く、他社があまりやりたがらない形状になっています。技術的ハードルのあるアイテムも商品化できる熟練度、商品化を許容する社風がお客様との信頼関係につながっています。
このキーケースはスマートキーではなく、物理的に鍵が外側に出るタイプ。つまり、鍵をキーシリンダーに指して、エンジンを起動するため、キーケース全体を指で捉えやすいように全体に丸みをもったデザインになっています。また、革の上からドアの開閉ボタンが押しやすいように施されています。
女性に人気のある汎用キーケース。ほぼ全車種に対応したケースとして作られ、車を乗り換えても使い続けるメリットがあります。また、ギフトとして人気があります。
これだけ話題になる商品でありながら、実は「ヒット商品は狙っていない」と荻原さんは言います。「月に2個売れるような商品を100種類作る」という考え方を大切にしています。このアプローチは効率性を求める大手が最も苦手とするニッチ戦略であり、例えば、店舗を持つカー用品専門店にとって、種類の多い商品は棚面積をたくさん使ってしまうため、扱いにくいという理由があります。結果的にネット販売の方が優位性を持ち、ニッチ市場でシェア確立することにつながっています。
洗練されたデザインがクルマ好きの心をくすぐり、口コミからヒット商品につながったわけですが、この根底には「ライバル店の真似をしない」という信念を持ち続けているからです。インターネットで安価に情報が受け取れる時代において、その信念を実現し続けることは難しいですが、具体的に加工技術やデザイン、機能性においてライバルとの違いを作ることが結果的にギフト需要を作り出すことにつながっています。ギフトは一般的な商材と違い値引くと価値が下がる性質があるため、単価を維持しやすい性質があります。つまり、他社との差別化がギフト需要を生み出すという好循環につながっており、優れた戦略を取っている印象を受けました。
また、革のダイヤモンドと言われる「コードバン」を使ったキーカバーの受注生産も展開しています。コードバンとは馬のお尻部分の革で、一般的な革と違い、革の中にある厚さ2mm程度のコードバン層という部分を削りだしたものを指すようです。削り出すには熟練の技が必要で、宝石採掘に似ていることから、革のダイヤモンドなどと呼ばれるようです。非常に高価なコードバンを使ったキーカバーの制作依頼もあり、お客様との信頼度が非常に高いことが伺え、商品品質に関してはクレームがないとのことです。
最近は中国企業からの低価格、高品質のキーカバーが国内に入ってきています。そして、それら企業の売上分析をしたところ、国内市場での廉価版のニーズが十分あり、売上シェアを伸ばすことができると判断。革茶屋とは別ブランドである廉価版の新ブランドを展開予定しています。ユニクロに対する、GUの関係を想像すると理解しやすい思います。既存ブランドを壊さずに、新たに売上シェアを取りに行く経営判断は多くの経営者が求めているのではないでしょうか。今後の展開が非常に楽しみです。
荻原さんのインタビューを通して、ヒット商品の源泉にはライバルの真似をしない強い信念と冷静かつよく練られた戦略があることを知ることができました。ぜひ、これからネットショップを展開される方に参考にしていただければと思います。