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超長寿化時代の市場地図 ―多様化するシニアが変えるビジネスの常識

スーザン・ウィルナー・ゴールデン・著/佐々木寛子・訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊

2,178円(キンドル版・税込)/2,420円(紙版・税込)

またディスカヴァー・トゥエンティワンの本を紹介することになってしまいましたが、この出版社に知り合いはおりませんので、偶然です。

原題は『STAGE (Not AGE)』と非常にシンプル。これからは「年齢」ではなく「人生のステージ」で語ろうという著者の考えがそのままタイトルになっています。さすがにそれでは売りづらいと考えたのか、邦題は説明口調になりました。

帯にある「『老後』で一括りにされる時代は終わった。世界が注目する3200兆円市場の可能性を読み解く」というコピーが、本書の内容を端的に言い表しています。いわゆる「超高齢化社会」を負の要素でとらえるのではなく、ブルーオーシャン市場と見ることで大きな可能性を見出せるということです。

人類の平均寿命が延びたことに関する言葉は、「老化」「超高齢化」「老後」など、プラスのイメージではないものが多く、本書はそれに抵抗して「超高齢化」ではなく「超長寿化」という言葉を用いています。

また、「3200兆円市場」とありますが、桁が多すぎてピンと来ません。アメリカの株式市場が7500兆円、2030年に予測されるAI市場の規模が2250兆円と言われると、いかに巨大な市場であるかが想像できるかと思います。

また、帯には神田昌典氏の「長寿市場は未開拓の金鉱。本書は人生100年時代に企業を急成長へ導く最強ガイドだ!」という推薦文も載っています。タイトルの「市場地図」という言葉とこの推薦文で、本書が社会学の本ではなくビジネス書であることが腑に落ちます。

さらに原題の副題である「How to understand and serve people over 60 --the fastest growing, most dynamic market in the world.」を翻訳すると、「60歳以上の人々を理解し、サービスを提供する方法――世界で最も急成長し、最も活気のある市場」となり、本書の発行意図が明白になります。つまりこの本は、これから世界が直面する未曾有の高齢化社会で企業がいかに儲けられるかを説いたものといえます。

「はじめに」で著者は人口動態の新たな真実を紹介しています。アメリカでは100年前、平均寿命が54歳でした。それが今日では80歳に達しています。さらに長寿命化は進み、2000年以降に生まれた人は100年生きるのが普通であるといわれています。

その結果、先進国を中心に人口の構成が大きく変化しました。アフリカを除く世界のほぼ全域で高齢者人口が若年人口を上回っています。アメリカでは毎日1万人以上が65歳を迎えています。

ところがこのような現実を社会はネガティブなものとしてとらえています。日本でも「少子高齢化」は「困ったこと」の代表です。それに対して本書は、このような人口動態の変化を「大きなビジネスチャンス、新たな市場機会」と考えています。新たに生まれる長寿経済の市場規模を22兆ドル(約3200兆円)とし、この市場に参入することが企業の重要課題だというのです。

この新たな市場に参入するためには、いくつかの前提条件があると著者は言います。ひとつは「健康寿命を延ばすこと」。たしかに、寿命が延びても寝たきりでは自由な活動ができませんから、健康であることは非常に重要です。

ふたつめは「高齢者」「お年寄り」といった年齢で一律に区分する考え方をやめること。90歳で農作業に精を出している人もいれば、65歳で病院のベッドから離れられない人もいることを考えれば、「何歳だから」という見方は意味がなくなります。

3つめは、長寿社会にふさわしいネーミングを考え出すこと。今ある言葉はすべて不適切で現実に即していないため、長寿市場で成功するなら、人々に希望を持って受け入れられる言葉が必要だということです。

これらの前提を踏まえて、著者は「人生のステージ」あるいは「ライフステージ」という考え方を提唱しています。世代別モデルではなく、個々の選んだ生き方で人々を分類するべきだというのです。

それではここで目次を掲載し、続いて著者によるそれぞれのパートの解説を紹介しましょう。どの項目に何が書いてあるかの説明は、これから読み始めようという読者にとって親切なものです。和書にはあまりありませんが、洋書ではよく見かける方法です。

・はじめに――人口動態の新たな現実
・第1部 長寿化を理解する
第1章 寿命から健康寿命へ
第2章 年齢いろいろ、ステージはそれぞれ
第3章 ステージでマーケティングする
・第2部 ビジネスチャンスと課題
第4章 長寿ビジネスのチャンスを見つけよう
第5章 カスタマーの実像を見極める
第6章 チャネルの課題に取り組む
第7章 起業家のチャンス
第8章 長寿化への投資と「配当」
・結び――「これから期」を生きる
・付録
・謝辞
・巻末注

本書は2部構成となっていて、第1部は長寿化を正しく理解したうえで、年齢だけで高齢者を一括りにせず、個々の「ステージ」に注目するマインドセットを持つためのパートです。

第1章では人口動態の変化を理解し、年齢で捉える「寿命」とステージで捉える「健康寿命」の違いについて解説しています。

第2章では長寿に関する用語の刷新を提案しています。既存の議論の方向をリセットし、新たな視点で人生を扱うポートフォリオを紹介するものです。

第3章は長寿マーケットをセグメント化する際の考え方が解説されます。ここでもカスタマーを年齢ではなくステージで分類しています。

第2部は長寿マーケットのビジネスチャンスを深掘りし、そこで予想される障壁の乗り越え方を検討します。

第4章では優れた長寿マーケット戦略を実践した企業の事例が紹介されています。いずれも、これまで60歳以上がターゲット外だった領域をビジネスチャンスに変えたものです。

第5章は長寿ビジネスにおけるさまざまな顧客と取引先についての解説です。あわせて顧客獲得の際によく起きる課題についての検討があります。

第6章は集客と販売のチャネルにおける課題を論じます。問題解決のための新たなプラットフォーム・ビジネスも紹介しています。

第7章ではこの分野における起業を扱っています。長寿ビジネスでの起業と、長寿世代当事者による起業の可能性が示されます。

第8章はまとめの章です。多世代が活躍する場が誕生するイノベーションを起こす際の社内制度改革や政策への関与、尊厳を重視した経営視点が論じられます。

それぞれの章の冒頭には「概要」が、章末には箇条書きの「提言」がついているので、まずそこから読み進めるのもいいでしょう。たとえば第1章の概要と提言はこんな感じです。

【概要】
出生率の低下と平均寿命の伸長により、人口高齢化が進行している。人口高齢化は、米国をはじめ多くの国で、今後数十年は続くメガトレンドである。過去150年で寿命は倍に延びており、これは人類史上有数のサクセスストーリーだ。現在生まれてくる子どもは過半数が100歳を超えて生きると予測されている。この「新たな長寿化」に伴うビジネスチャンスを捉えた戦略が、あらゆる業界で求められている。

【提言】
・マインドセットを変えよう。人生を「教育・仕事・引退」の3ステージで捉えるのは時代遅れだ。今や人生100年時代なのだから。

・数字を把握しておこう。2050年には、世界人口において50歳以上人口が今の倍になり、65歳以上人口が15歳以下を初めて上回ると予測されている。

・米国の消費支出の50%以上、世界資産の83%が50歳以上の手にあることを忘れてはならない。この層こそが、米国はもちろん世界で最大かつ急成長するビジネスチャンスなのだ。

・長寿ビジネスのターゲットは50代以上だけではない。人生100年時代ならではの、多世代向け商品・サービスなど、広い視野でビジネスを考えよう。

・長寿社会のビジネスチャンスを検討する際は、「年齢よりステージ」の概念を取り入れよう。新しい人生の地図は年齢では決まらない。新たなステージが多数あり、あらたなチャンスに満ちているはずだ。

・単に寿命を延ばす延命ビジネスではなく、健康寿命を伸長するためのビジネスを考えよう。

・プロダクト設計やカスタマーサービス、マーケティング戦略には、ステージの観点、多世代の視点を取り入れよう。

第2章の冒頭では、長寿社会の新たなネーミングについての具体的な論考があります。長寿社会の住人たちを「年寄り」呼ばわりせず、これからの時代にふさわしい名前で呼ぼうとする試みです。著者が見つけたネーミングには次のようなものがありました。

探検者、ミドラー、ミドルシーン、多年生世代、B世代(ベビーブーマーをZ世代風に表したもの)、ニューオールド、ニュー・オールド・エイジ(新・高齢者)、ヤング・オールド(若き高齢者)、ヨールド(youngとoldを合わせた造語)、ベター・オールド世代、レガシー世代、オールドスター(ヒップスターとオールドを掛けた語)、エルダーフッド(年長者世代)、オールダーフッド、ヴィンテージ、特別な人(気品のある人)、経年新世代、ブルーマーズ(花開く世代とベビーブーマーを掛けた語)、経験豊富な世代、智恵者、モダンエルダー、プレ・オールド世代

これらの語について、著者は辛口な批評をしています。
・当事者に気に入られたり注目されている語はほとんどない
・30年超を生きる活力や変化の可能性を捉えられていない
・新たなビジネスチャンスをうまく言い当てていない

著者たちがスタンフォード大学で行ったプロジェクトでは、次のような語が考えられました。

冒険者、マキシマイザー(最大限の人)、パイオニアリーダー、ドリーム・キャッチャー、シーズンド(熟成した人)、トレイルブレイザー(開拓者、草分け)、ガイディング・ライツ(先駆者)、ヴァイタル(最重要な層、活気ある者)、ボヤージャーズ(航海士)、ルネッサンス実行者、ピボッター(中心人物)、リアライザー(気づく人、現実化する人)、オーセンティック(本物の人)、スライヴァー(力強く生きる人)、ストライバー(奮闘する人)

ちなみに、ワークショップに参加した人たちの共感を得たのは、次の4つだったそうです。

・ステージャー(経験豊富な人、ベテランの意味)
・アーリー・ブルーマーとレイト・ブルーマー(最盛期の人、早咲き、遅咲き)
・ウェルダー(wellとelderを掛けた語)
・ズーマーズ(ZoomRz、疾走や急上昇を示すZoomを使った今風の表記)

ただし、著者本人は「ルネッサンス世代」がお好みとのことです。再生を意味するルネッサンスという言葉が個人的に響くのだそうです。人生のリニューアル、活力ある興味深いリバイバルや再生を指す語として気に入っていると書いてありました。

長寿社会を生きる人々を的確に表現する言葉を見つけることは、おそらくこの市場で成功するための第一歩でしょう。著者も「ここでの目的は1つの言葉に絞ることではない。時間軸に縛られた言葉遣いをやめて、ステージを軸にした言葉を使うのが重要なのだ」と言っています。

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ネーミング・プロジェクトは、新しい呼称への反応をグループインタビューで多様な層に確認した段階までだが、適切な言葉を使うべきだという考え方自体は、読者がイノベーター、マーケター、CEOとしてやっていくうえで重要だ。
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本書に多出する「ステージ」ですが、著者は18のステージを提案しています。

【成長のステージ】
始まり
成長
初発進
実験

【キャリアと家族のステージ】
継続学習
経済基盤の確保
子育て・家族
介護
健康状態の見直し

【再出発のステージ】
方向転換
再発進
人生の優先順位の再設定
移行
ポートフォリオの作成
再生
サイドプレナー

【結びのステージ】
終活
人生の幕引き

以上、本書のごく一部分を紹介しました。長寿社会を市場として捉える第一歩として読みたい本です。


 

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