デザインセンスを身につける
ウジトモコ 著 ソフトバンク新書
798円 (税込)
タイトルを見ただけでは、「デザイナーになるための本」と勘違いされてしまうかもしれませんが、本書は美術コーナーに置かれるべき本ではありません。一般の人が自己表現としてのデザインを学び、自分の「やりたいこと」をスムーズにやり遂げるためのツールとして「デザインセンス」をとらえるための入門書なのです。
冒頭でSNSのアイコンについて触れましたが、それは本書からのパクリです。著者はアイコンだけでなく、プロフィールやハンドルネームも、SNSでは大切にしなければならないと説きます。なぜなら、それらは企業でいえば「会社案内」に相当するものだからです。
世の中にこれだけデザインされたものが氾濫している現在、「デザインは専門家に依頼して作るもの」というのが一般の人のデザインに対する考えでしょう。でも著者は、「それは違う」と言います。「デザインはすでにできあがったものを見栄え良くする飾りではない」というのが著者の主張です。
第1章の「センスとは何か」と第2章の「なりたい自分をデザインする技術」で、著者はSNSのアイコンについて深く掘り下げていきます。なぜ猫の写真ではダメなのか、顔を出さずに自分らしさをアピールするにはどうすればいいか、「ふさわしさ」のデザインとは、「クラス感」とは何か、…etc。
そして第3章の「プレゼンはデザインで勝負」では、パワーポイントによるプレゼンテーションで「勝つ」ための方法が伝授されます。「アイキャッチ」「キービジュアル」「フォーマット」「キャラクター設定」「トーン&マナー」「誠実さや高級感」といったキーワードを学びながら、「あなたらしさ」をどうやってプレゼンに盛り込んでいくかを考えます。
第4章の「デザインでブランドが育つ」では、ブランド構築を含めたデザインマーケティングが語られます。「アイデンティティのデザイン」「シンプルデザイン」「自信をデザインする」「個性的であることを恐れない」といった興味深いテーマが、実例つきで並んでいます。
最後の第5章は、「デザインがわかると未来が見える」です。「モチベーションを高めるデザイン」「あなたの夢をデザインする」「メッセージのデザイン」「未来をデザインする」と続いて、デザインが何を可能にするかを見せてくれます。
本書を通読すれば、「デザインは専門家に依頼するもの」という固定観念は読者の心から完全に消滅するでしょう。デザインはセンスであり、見せ方・見られ方の基本であることがはっきり認識できるようになるはずです。
著者の言う「ワンキャッチ・ワンビジュアル」が心にしみた人は、Twitterで140字いっぱいに雑多な話題を詰め込むことはしなくなるでしょう。ホームページやブログの表現方法も、わかりやすいものに変わっていくことでしょう。つまり、デザインは専門家のものではなく、すべての人が備えていなければならないスキルだということです。
本書にはデザイン入門書のような専門用語のオンパレードはありませんが、必要最小限に絞られた専門知識は解説してあります。たとえば黄金比や三分割法、ハイアングルとローアングル、色相と色濃度などです。とてもわかりやすく解説されているので、本書に出てくる専門知識はすべて覚えておくといいでしょう。
著者は現役のアートディレクターなので、本書には著者が関わった広告デザインなども事例として掲載されています。オールカラーの本ではないのですが、部分的にカラーページが使われていて、とても説得力があります。
本書の帯には、こんな表記があります。
「デザインがわかると、なりたい自分になれる」
「説明がうまくなる」
「わかりやすい資料が書ける」
「ツイッターのフォロワーが増える」
「チームの士気が高まる」
「進むべき未来が見える」
この中のひとつでも実現するのなら、798円という価格は安ものではないでしょうか。
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