13歳からの論理的な文章のトレーニング 「説得力あるロジック」が身につく80問
小野田博一 著 PHPエディターズ・グループ 刊
1,260円 (税込)
PHPエディターズ・グループは、日本の大手出版社の一つであるPHP研究所の子会社で、書籍などの編集・制作を専門的に手がけるところです。本書のように販売をPHP研究所に委託する出版物を刊行するかたわら、PHP研究所の下請けとして同所の刊行物の多くにかかわっています。
ちなみに、ご存じの方も多いと思いますがPHP研究所というのは松下幸之助によって創設された出版社で、株主は松下創業家。社名は「Peace and Happiness through Prosperity(繁栄によって平和と幸福を)」の頭文字から取られています。この言葉は、松下幸之助の信念として語り継がれているものです。
本書は、同じ著者による『13歳からの論理論理ノート』『13歳からの作文・小論文ノート』『13歳からの論理トレーニング』『13歳からの論理思考力のトレーニング』に続くシリーズ最新作。「論理的な文章とは何か」を正しく理解し、より論理性の高い文章を書くためのトレーニングができるように作られています。「13歳からの」というタイトルで「子ども向き?」と思われた方もいるかもしれませんが、「中学生から読める本」ということです。
著者の小野田博一氏は論理パズルや論理思考力に関する著述が数多い「ロジックの専門家」。東大医学部大学院を卒業後、専門学校講師を経て日本経済新聞データバンク局に6年間勤務。日本郵便チェス協会の第21期日本チャンピオンで、日本通信チェス協会の国際担当という、いかにも「ロジックに強そう」な肩書きです。
本書の特徴は、本格的なトレーニングブックであること。サブタイトルにもあるように、80問の問題がちりばめられており、読者の頭を悩ませます。といっても珍問、難問のたぐいではなく、ふだん論理的な考え方にあまりタッチしていない人が、頭の錆びを意識する程度でしょう。たとえばこんな感じです。
【Q5】次の文章に「隠れた前提」を補足し、論理的な文章にしなさい。
蜘蛛には足が8本ある。[ ]だから蜘蛛は昆虫ではない。
答えは「足が8本ある昆虫はいない。」です。実際、世の中にはこの文章のように大切なパーツが欠けたままで発表されてしまっているものがたくさんあります。反対に、論理的な意味では不要なパーツがあるために、主題がぼけていまっているものもよくあります。日本語の文章が事実よりも情感を伝えるのに適していることと、論理的な文章を書く訓練を学校できちんとやっていないことの結果でしょう。
本書を読み進むと、日ごろ私たちが文章について漠然と理解していたことが鮮明な知識となって再認識されていきます。たとえば、論理的な文章は「結論」「理由」「事実」の3種類の要素によってのみ構成されるということ。結論は理由で支えられ、理由は事実で支えられますが、結論が事実で直接支えられることはありません。また、ひとつの結論に対して理由や事実が複数存在する文章もあります。
そして問題の間には、短くて適切なアドバイスがあります。列挙するとこうなります。
・前提はすべて明言しなければならない
・関係のないことを述べてはならない
・文章の論理性を高めるコツは、論理のギャップを極力なくすこと
・少なくとも1つは結論に対する理由を述べること
・例を挙げることで論理性は高まる
・支えるものは多いほうがよい
・理由を書くべき箇所で理由を書き落としてはならない
・広い話(概論)の後には、それについての詳しい話を置く
・断定できないことを断定してはならない
・逆接の「が」「しかし」を論理構造中に使わない
・事実を述べているところでは「が」「しかし」があってよい
・わかりやすい文章は論理構造がわかりやすく書かれている
・「いいたいこと」は1つのセンテンスで書かねばならない
・結論を疑問文で書いてはならない
・論理構造は文脈で暗示するのではなく言葉で明示する
・論理的統一感が感じられる文章を書く
・「トピック・センテンス」を置こう
・論理的な文章では感情を表してはいけない
英語圏では、初等教育の段階から論理的な文章を書く訓練が行われています。それに対して日本では「作文」の授業がありますが、論理的な文章であるかどうかはあまり問われません。その結果どうなるかというと、新聞、雑誌のようなプロの文章書きによる文章にまで、論理的でない文章が氾濫することになります。本書でもそのことを危惧していて、著者は以下のように述べています。
「以上で、論理的な文章とは何であるかについて、あなたは漠然と、感覚的に理解できていることでしょう。論理的でない文章を見たら、それが論理的でないことは容易にわかるでしょう(なぜ論理的でないかを言葉で上手く説明できないのであっても)。ためしに、新聞か雑誌のコラムや論説文を見てみましょう。きっとあなたには、そこには論理的でない文章ばかりがあるように見えるでしょう。」
「論理的な文章」というと「自分には関係がない」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。みなさんが仕事で書く文章のすべてが「論理的な文章」であるはずです。「もっと効率よく自分の考えを相手に伝えたい」と思っている人すべてにおすすめの、わかりやすく実践的な参考書です。
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