「上から目線」の構造
榎本博明 著 日経プレミアシリーズ
893円 (税込)
「上から目線」という言葉自体は、お笑いなどを媒介して流行してきた言葉だと思います。しかしそれが流行した背景には、「他人の視線を非常に気にする」日本人の特性があると考えられます。
本書は、最近の日本人、とくに若者に多く見られる「根拠のない上から目線」の分析を糸口として、日本人の心理構造に深くメスを入れていく心理学の入門書です。はじめのうちは「いるいる、こんなやつ」「馬鹿なんだよね、こういうタイプは」と対岸の火事を眺める気分で読み進んでいきますが、いつの間にか自分自身に「ぐさり」と刺さる解説が。この本を読んで「自分とは関係ない」と泰然としていられる人は、おそらく日本人ではないでしょう。
著者の榎本博明氏は1955年生まれの心理学者。東芝の市場調査課、大学教授などを経て、現在はMP人間科学研究所の代表を務めています。これまでに上梓した著書は、『ビジネス教養としての心理学入門』『記憶の整理術』『〈ほんとうの自分〉のつくり方』など。本書は発売以来わずか数カ月でベストセラーを記録しました。
「あいつの上から目線、マジむかつく」
「そういうふうに上から言うの、やめてもらえますか」
というような使われ方をする「上から目線」ですが、大きく2つに分かれます。ひとつは上司やお客様など立場が上の人からの(しごく当然な)上から目線。もうひとつはアルバイトや新入社員が目上の人や同僚に対して示す(不自然な)上から目線です。本書ではこの両方を題材にしています。
第1章では、「上から目線が気になる理由」を解きほぐしていきます。キーワードは「自信の有無」「本物のプライドと偽物のプライド」「劣等コンプレックス」など。
第2章では反対に、「つい上から目線でものを言ってしまう人」の心理構造を解剖します。そのような人に特有の図式である「上下関係」「勝ち負けの図式」「根拠のない自信」がどのようにして「上から」の態度になるかがわかります。
「上から目線」に拒否反応を示す人々は、多様な人間関係に慣れていないことが原因と考えられます。そこで第3章では最近の若者たちの実態である「人間関係力の乏しさ」にスポットライトを当てます。あわせて本音を出しづらい昨今の社会状況にも触れています。
以降、第4章では「甘えの構造と世間体」、第5章では「母性の蔓延による父性の拒絶」を解説しています。小さなところから入り、最後は大きな全体像について考えるような構成です。
目次から、みなさんが関心を持ちそうなフレーズを拾ってみると、こんな感じです。
「人を見下す人物にありがちな傾向」
「ジェスチャーの多い人が持つ不安」
「足の遅さが劣等感になる子は勉強にも自信がない」
「逆ギレの裏にある欲求とは」
「なぜ店員に威張り散らすのか」
「ウザイと思われる大人の特徴」
「比較意識が『見下され不安』を生む」
「同期の業績に一喜一憂しない方法」
「落ち込みやすい人は成長しにくい」
「あの人が『自分探し』ばかりしているのはなぜか」
「控えめすぎる人は自己愛が強い」
「人の目ばかり気にする人は自分を好きな人」
「ブログを書くとストレスがなくなる」
「電話嫌いでメール好きな人の心理構造」
「お客に説教するアルバイター」
「お客様は身内か他人か」
「『引きこもり』は日本的現象」
「『上から目線』の正体」
本書を読むと、日頃から感じていた人間関係での謎や不合理がさっぱりと解明されます。ただそれだけでも一読する価値のある本です。
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