100円のコーラを1000円で売る方法
永井孝尚 著 中経出版 刊
1,470円 (税込)
副題に「マーケティングがわかる10の物語」とあるように、本書は10編の短編小説的な物語で構成された最新マーケティングの入門書です。といっても登場人物は共通しており、ストーリーは連続していますから、10回に分かれた連続ドラマと言った方が適切かもしれません。
主人公は才色兼備のビジネスウーマン・宮前久美。強気一辺倒の強引な性格で相手を圧倒していくセールスレディです。その彼女が数々の武勇伝をひっさげて、地方の営業部から東京本社の商品企画部に異動になったところから、物語はスタートします。
彼女は初日の自己紹介で「この会社の商品は、みんなガラクタです!」と宣言し、一同を唖然とさせます。「ガラクタを押しつけられた現場の営業はみんな大変な苦労をしています。私が東京にやってきたのは、ガラクタをちゃんとした商品に変えるためです!」
それで彼女がスーパーウーマンとして結果を出すというのでは、あまりにもお話として単純ですが、ご安心ください。商品企画部には与田というマーケティングの神様がいて、彼女は与田にコテンパンに叩きのめされます。「あなたの答えは0点です」「あなたの考えは、とても浅い」「期待していたのに、その程度ですか」と。
主人公たちの会社は会計ソフトのメーカーですが、会社の事業目的を問われて「お客さんのお役に立てる会計ソフトを開発して提供すること」と答えた彼女に対し、与田は「アメリカの鉄道会社がなぜ潰れたのか考えよ」と迫ります。そして「事業目的を『化粧品の製造販売』としている化粧品会社と、『ライフスタイルと自己表現と夢を売ること』としている化粧品会社で、生き残るのはどちらと思うか?」とヒントを出します。
思い込みが強く、常識にとらわれた考え方しかできない彼女は、セールスの現場で得た知識と情報を元に、「お客さんが求めていた機能をすべて盛り込んだ新製品」を提案します。彼女は「生のお客さんの要望に応えた商品なのだから、売れないはずがない」と主張しますが、与田は「絶対に売れない」と断言します。
彼女の勘違いは、同僚の助っ人として売り込みに行った大型商談で明らかになります。先方の要望をすべてクリアした上に破格の値引きを加えた彼女の提案が、価格的にずっと上のライバル商品に負けてしまったのです。納得できない彼女は先方の担当者に負けた理由を問いただします。そこで出てきたのは、次の「式」でした。
顧客満足=顧客の感じた価値-事前期待値
彼女の考え方・やり方では、顧客に事前期待値以上の価値を提供することができません。だから、いくら頑張っても0点しか取れないわけです。それに対して顧客が予想していなかった価値を提供すれば、それは事前期待値を上回るものになります。顧客の要望だけを鵜呑みにするのではなく、顧客に理想の姿を提案したライバルが競争に勝つのは、自明のことでした。
このようにして、本書では宮前久美という読者の代表が著者=与田から考え違いを正されていく形で、最新のマーケティング理論を教わっていきます。登場するのは「市場志向の事前定義」「顧客絶対主義の落とし穴」「顧客満足のメカニズム」「マーケットチャレンジャーの戦略」「価格設定におけるコストの評価」「バリュープロポジションの定義」「ブルーオーシャン戦略」「競争優位に立つためのポジショニング」「流通チャネルの構造とチャネル設計に関する意志決定」「イノベーター理論とキャズム理論」といったマーケティング理論です。
オール2色刷りで読みやすく作られている本書は、3時間ほどあれば読み通すことができますが、1冊でこれだけのマーケティング理論が学べるというのは、なかなかお得なのではないでしょうか。ちなみに、タイトルの答えは「リッツカールトンのルームサービス」です。
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