リーダーの値打ち
日本ではなぜバカだけが出世するのか?
山本一郎 著 アスキー新書 刊
780円 (税込)
「山本一郎」という、ありふれた著者名を見て「ピン!」と来た人は、おそらく古くからのネット愛好者でしょう。そちらの方々には「切込隊長」というハンドルネームのほうがおなじみかもしれません。現在は「切込隊長」を「引退」し、本名の山本一郎で活動しているそうです。
かつての切込隊長氏は、ニフティのBBSなどを舞台に超辛口の論客として、「議論して負けなし」の活躍をしていました。慶応大学に在学中から偽名でライトノベルを出版し、累計400万部のベストセラー作家であったという噂もあります。2ちゃんねるのひろゆき氏とも親交がありました。以前の職業は投資家、投資顧問業、技術評価コンサルタントですが、現在はブロガー、ライター、実業家を名乗っています。
そんな山本氏がリーダー論を語ったのが本書ですが、全体の内容は章立てを見ればおおよそ理解できるでしょう。
第1章 なぜ、こんなに頑張っているのに楽にならないのか?
第2章 日本には、なぜビジョンを語らないリーダーばかり生まれるのか?
第3章 駄目な人がトップに祭り上げられるメカニズム
第4章 繰り返される日本史という時間軸と日本社会のグローバル化という空間軸
第5章 マネジメント能力のアジャストと成長セクターのジレンマ
第6章 理想のトップは「育成」できるのか
「はじめに」の中で著者は、「どうして日本では、有能であるはずの人物がトップになった瞬間に無能さを感じるのだろう」という疑問を呈します。ころころと変わる日本の首相にしても、トップの椅子に座るまでは「優れた政治家」と目されていたはずです。にもかかわらず、実際に任に就いてみると欠点ばかりが目立ってしまい、短期間で首相の座を追われてしまいます。
それに加えて、日本型組織の機能不全がリーダーたちの足を引っ張ると著者は言います。「ひとつの流れにはまり込むと自浄作用が効かなくなり、環境への適応よりも組織内部の原理を優先して、結果として問題が広がり、希望的観測を事実に置き換えたうえで合理的ではない組織の意志決定を繰り返し、それが組織全体の衰亡へとつながっていく」という失敗や敗北のパターンは、はるか昔から3.11の福島第1原発に至るまで、私たち日本人にはあまりにもおなじみのスタイルです。
「日本型組織はなぜ必ず失敗するのか?」という問いに対して、著者はこう答えています。
「絶えず変化を続けている環境に適応力のある組織は、環境とともに、あるいは先読みをしつつ変化しています。組織の中に、常に危機感を発生させて、みずからを何らかの不均衡状態に置いています。ところが日本型組織は年功序列の昇進システムを変えず、個人に対する昇進などの評価も、結果よりやる気やプロセスを重視し失敗しても降格させないという情緒的人事を行って、安定志向の組織運営を変えることがありません」
「日本全体が持つ緊張感、あるいは自浄作用、正しいことや必要とされることは行わなければならないと主張できる、有為で責任感のある人材の不足がその根元となり、日本の各組織、各会社、各省庁、各政党、各団体、各学校で風紀を是正できず問題が問題のまま野ざらしになっています。その理由はかなり共通していて、その問題を発生させた原因となっている人物や権威や思想が重しとなって、その問題の是正を行おうとする行動そのものが、その人物や権威や思想を否定しなければ問題を解決できないという組織の原理があります」
「なぜ駄目な人がトップにすえられるのか?」という問いに対して、著者は「10人を率いるノウハウと1000人を束ねるノウハウは違う」と答えます。そこを誤認するから、次々と無能なリーダーが生まれてしまうわけです。そこに「前任者の否定ができない」という日本独特の風潮が重なり、ただでさえ無能なリーダーの手足が縛られてしまいます。
「今の日本には人に任せて文句を言う風潮が蔓延している」と著者は指摘します。「人を率いた経験も、率い方を学んだこともない人が英雄待望論を語る」とも。その証拠として、著者自身が経験した「リーダーになりたがらない日本人」の事例が本書には挙げられています。日本人は自分がリーダーになりたがらないくせに、リーダーには難癖をつける人種なのです。
本書にはこのほか、日本型組織や日本人的行動パターンに関する論考が数多く登場します。これからの日本における組織とリーダーのあり方を考えさせられる1冊です。
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